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たたら製鉄および鍛冶体験実習をすずかけ台キャンパスにて実施 ~ 国際意識醸成・広域科目「伝統技術と国際共修」

2022年7月27日

グローバル理工人育成コースは、新しい形の国際教育として、伝統技術を題材に自国と世界のかかわりを考える科目「伝統技術と国際共修」を2020年度に新設しました。本科目は、アメリカのハーバード大学、マサチューセッツ工科大学との国際交流活動として、2017 年度から2019年度まで計3回開催した「たたら製鉄ワークショップ」が前身となっています。

「たたら製鉄」は、砂鉄を木炭によって還元し鉄を得る、日本独自の製法です。このような製法でつくられた鉄は「和鉄」と呼ばれ、非常に純度が高く、良質で日本刀などに使われています。現代の製鉄法に比較して手間もコストもかかるため、現在では日本刀の材料の供給や技術保存目的といった、ごく限られた範囲での操業が行われています。

2017年の参加者
2018年の参加者
2019年の参加者
 同ワークショップは国際交流に加え、伝統的な「ものつくり」プロセスの理解・体験を通して、自国の文化を知ることの意義を認識するという、貴重な体験を現代の学生たちにもたらし、参加者や引率者から高い評価を得ました。この功績により、物質理工学院所属の担当教員2名が、「米国および本学学生の協働による伝統技術の理解に関する活動運営」として東工大教育賞を受賞しました。

 本科目の設置にあたり、物質理工学院教員および本コース担当教員とリーダーシップ教育院の教員とが連携し、さらにリベラルアーツ研究教育院の教員も加わることで、学生に伝統技術へのより深い理解と考察を促すものに発展させるに至りました。

授業では、たたら製鉄及びその産物としての和鉄を題材として、日本人学生と留学生がグループワークを通じて各自の出身国の伝統技術を取り巻く現状を理解した上で、事業展開(復興含む)を考え、世界への発信を意識した提案を行います。多国籍の学生が共同で1つの課題に取り組むことで、異文化間の相互理解を深め、国際共修のスキルを習得します。主に以下の内容で構成されます。

1. 対面講義,オンライン教材による学習
2. グループワーク (伝統技術,関連する産業,歴史や文化,社会的背景,伝統鉄の利用に関する情報収集・発表)
3. 実習 ( ①炭切り ②たたら製鉄(簡易版)および鍛冶体験(ペーパーナイフづくり)③刀鍛冶による日本刀に関する講義および刀鑑賞)
4. 最終発表 (和鉄と諸国の伝統技術を結び付けたプロダクトとその展開の提案)

すずかけ台キャンパスにて機材展示、たたら製鉄実習が実現

すずかけ台キャンパスに展示したたたら製鉄に使用される機材(一部)および工程を説明するパネル

本年度は、5月18日から7月6日までの期間で実施し、留学生6名、日本人学生7名が履修しました。2020年度および2021年度は大岡山キャンパスの工系廃棄物集積場にてたたら製鉄および鍛冶体験の実習を行っていましたが、今年度より実習場所をすずかけ台キャンパスに移転しました。同キャンパス教職員の運営・安全管理等での多大な協力を受けて、G1棟前の広大なスペースを利用して行うことができました。

実施に先立ち、本学の特徴を生かした国際教育および日本の伝統技術への理解促進を目的として、G1の棟ロビーに、鞴(ふいご)*1を中心に、たたら製鉄に必要な機材および日本刀の製作工程、これまでの国際交流の活動を説明する日英表記のパネルを展示しました。

 

*1 鞴(ふいご)はたたら炉に空気を吹き込む道具で、写真のものは天秤鞴。両端にそれぞれ2名でシーソーのように動かし、空気を送る。

 

実習1日目(6月1日):炭切り

実習は製鉄や鍛冶のための準備から始まります。 1日目は炭をたたら炉および鍛冶炉に適した大きさに切る「炭切り」を行いました。大きな炭を薪割りの要領で割り、拳小に切る作業です。風が強く、飛び散る炭の粉に全員顔を真っ黒にしながらも、十分な量の炭を切ることができました。作業後は協力して後始末をし、翌週の実習に備えました。

たたら製鉄・鍛冶実習で用いるための炭を切る学生

実習 2日目(6月11日):たたら製鉄 鍛冶体験(ペーパーナイフ作り)

実習2日目は、いよいよたたら製鉄および鍛冶体験実習です。天候にも恵まれ、任意団体「ものづくり教育たたら連絡会」、東工大卒業生、TA、教職員の支援の下、G1棟前のスペースを利用して行いました。まず、たたら製鉄炉1基、鍛冶炉4基を煉瓦で組み立てます。

組み立てられたたたら炉(左)および鍛冶炉(右)

組まれた炉に炭を入れ点火し、加熱が進むと、煙突の役割を果たすブロックを炉の上に積み上げます。煉瓦のすきまから漏れ出る炎をモルタルで封じる作業に挑戦する学生もいました。

火がのぼってくるたたら炉の上にブロックで煙突を設置

ここでG1棟ロビーに展示していた鞴が登場します。鞴をたたら炉につなぎ、全員が順番に踏み炉に風を送りました。4人が息を合わせて踏み続ける必要があり、持久力も要する作業です。

息をあわせて鞴を踏む学生
砂鉄を投入する学生(左)  たたら炉から流れ出るノロ(右)

 

炉が十分に温まったら、砂鉄を炉に入れます。砂鉄は木炭の燃焼により一部が金属鉄まで還元されますが、残りはノロと呼ばれる、溶岩のような酸化物融体になり、不純物としてたたら炉から排出されます。

 

すべての砂鉄を入れ、木炭を燃やし切ると、炉から純度の高い和鉄を取り出すことができます。今度はたたら炉を解体し、いよいよケラと呼ばれる和鉄をとりだします。ここでは力自慢の2名が立候補し、皆が見守る中で、見事取り出しに成功すると、大きな拍手が起こりました。

炉を解体し、ケラを取り出す学生

本格的なたたら製鉄では、10トンの砂鉄と12トンの木炭から2.5トンの和鉄ができます。簡易たたら炉では、70キロの木炭と20キロの砂鉄から、5キロ程度の和鉄ができ、最終的な製品になるとわずか2~3キロ程度しか残りません。実際のたたら製鉄でつくられた和鉄のうち、質が高い部分は玉鋼と呼ばれ、日本刀の材料となります。

今回の実習では、約5.8キログラムの和鉄を作ることができました。

鍛冶によりペーパーナイフを作成する学生(左・中央) 完成したナイフ(右)

鍛冶体験では、薄い板状に折り返し鍛錬された和鉄をさらに鍛え,学生たちが思い思いの形のペーパーナイフを作成しました。学生たちははじめ炉の炎や鉄の熱さに躊躇しながらも、打ったときの音や響き、手に伝わる和鉄のしなやかな手ごたえなどを実際に体験し、世界で1つだけのペーパーナイフを完成させました。

実習3日目(6月25日):日本刀鑑賞

6月25日は日本刀に関する講義および刀観賞を、千葉県千葉市若葉区の松田次泰鍛刀場において実施しました。古刀と呼ばれるおよそ800年前の鎌倉時代の名刀の再現に挑んでいる松田氏は、千葉県の無形文化財保持者にも認定されている現代の名匠です。

この日はMITからの参加者も2名加わりました。

松田刀匠(左)の講義を受け、日本刀を鑑賞する学生

松田刀匠から日本刀の持つ精神性や歴史、小さな金属組織の織り成す刃文の抽象美についての講義を受けて、学生からは沢山の質問がでました。鑑賞方法についてレクチャーを受けた後、実際にそれぞれが3本の日本刀を順番に手に取ってを手に取って鑑賞しました。日本刀に触れるのは初めての体験であり、学生たちは皆、一本一本その形や、光に当てることによって浮き立つ波紋に着目し、じっくりと時間をかけて鑑賞しました。

刀匠と実習の参加者(教職員、TA含む)

最終発表(7月6日)

発表前にアドバイスをしあう学生(左)最終発表の様子(右)

最終講義日には、これまで学んだ知識と実習での経験を活かして、たたら製鉄とその産物である和鉄を、グローバルな視点から事業展開させるための提案を、グループごとに発表しました。

留学生の出身国の技術や文化と融合させ商品化させる提案や、楽器、料理器具などの日用品に付加価値を与える提案、商品の宣伝方法等、異文化グループワークならではの様々なアイディアが生まれ、発表中も多くの意見や質問が飛び交いました。また、たたら製鉄実習で「けら」を叩き割る作業をした経験からインスピレーションを得た製品を発案したグループもあり、授業や実習により多くの学びがあったことを示しました。

「伝統技術と国際共修」は来年度も同時期に実施する予定です。来年度は来日中のMIT学生を受け入れ、共に実習を行う等、さらなる活動の充実を目指します。

履修生の声

I am impressed by the collaboration of all of the teachers and appreciate this chance to learn Japanese traditional culture by iron. I didn’t expect there are so many teachers assisting us including the course itself, the translation for international students, the help during iron making and sword appreciating, and the ways teacher gave for us to put forward and promote our business ideas. M.S.さん(中国)

実習や留学生との交流、他学年との交流など、他の専門授業では経験することのできないことのオンパレードでした。今までとった授業の中で一番楽しかったです。N.M.さん(日本)

 

The question section for each video study material helped me remember the important features of the Tatara making process easily D. D.さん(ベトナム)

 

グループワークで、英語力・コミュニケーション能力が足りず、思ったことがなかなか言えずもどかしい思いをしました。ですが、伝えたいアピールをすれば、周りの人々は耳を傾けてくれます! A.N.さん (日本)

 

The course was very nice and enjoyable! It would be nice if we had another chance to finish polishing the letter knives to the point where we can fully use them, maybe given them a handle. F.B.さん(ブラジル)

 

For international students in particular, there is also the coverage of English so that you can join the course with no worries. The plentiful teachers and TAs ensure that every student is cared for …… I really appreciated this class. M.Z.さん (中国)

 

自分の周りのほとんどの学生はこのような授業があることを知らないので、もっと学生に伝わるように宣伝できたらいいのかなと思いました。Y.A.さん(日本)

 

This course requires a lot of time and effort, but definitely an unforgettable experience for a gaijin like me. Highly recommended if you are bored of normal courses at uni. T.H.さん(ベトナム)

英語でコミュニケーションすることや、留学生とコミュニケーションすることは、日本人学生と話す時とはまた違った価値観ややり方があることに気づいた。 S.I.さん(日本)

MITからの参加者の声

The Sword Appreciation event was one of the most memorable experiences I have had in Japan! I learned about the complex and meticulous steps of the production of Japanese swords, and learned how to appreciate this mastery. I am also grateful for the opportunity to have met some of the students from Tokyo Tech. Since I was a participant of the virtual MIT-Tokyo Tech Japanese language exchange program for 2 years during the pandemic, it was a special opportunity to interact with students from Tokyo Tech in person.

 

It was a unique and special opportunity to visit master swordsmith Matsuda-sensei’s atelier with Tokyo Tech. It provided a view into, and firsthand experience of, Japanese craftsmanship that I otherwise would not have had a chance to enjoy. While swords no longer have functional use in modern society, I have learned that this has enabled swordsmiths to explore and immerse in a whole world of artistry while crafting swords. The trip allowed us to see and touch this artistry up close, and even try our hand at forging a sword ourselves. 

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